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「最高」の逃げ馬 ツインターボ コラムニスト:FUKU

 ”最強”でも”最速”でもない。
 ”最高”、それも史上最高の逃げ馬。そう思わせるだけのキャラクターが彼には備わっていた。
 何しろ、彼は中央での全22戦、誰にもハナを奪わせなかったというものスゴイ馬なのだから。
 彼の名はツインターボ、その名の通り、ビュンビュン飛ばさなきゃ気が済まなヤツだった。

 デビューは遅かった。1991年3月2日、中山競馬場のダート1800メートル。
 中央で走った最初で最後のダートレース。彼は果敢にハナを奪って1800メートルを無理矢理
 押し切って見せた。勝ち時計が1.57.2、上がり3Fが40.4というタイムでは、こう書くっきゃないだろう。
 それでも2着のコウチボードを3馬身ちぎっていた。このときの馬体重が438キロ。
 中央全22戦中最高体重となった。
 普通は逆に使われる度に増えていくものなんだけど・・・少なくとも4歳時は。

 中2週で走った500万下のもくれん賞も勝つ。このころは石塚騎手が乗っていた。
 続く青葉賞、駒草賞は逃げ潰れたものの、5戦目のラジオたんぱ賞、大崎騎手を背に逃げ切って
 初重賞制覇。ストロングカイザーやカミノスオードらを下し、夏の上がり馬として秋戦線に名乗りを上げる。

 3ヶ月休んだ後のセントライト記念も勝ち馬ストロングカイザーにクビ差の2着。
 レオダーバン以下を抑えての2.12.8の時計は極めて優秀で、続く福島記念も2着好走。
 その次の有馬記念はさすがに14着と潰れはしたものの中距離の一流馬への道を確実に歩んでいた・・・
 ハズだった。ここまでは。

 明け5歳。なんと10ヶ月に及ぶ休養を余儀なくされ、復帰戦は福島民友カップ(当時は1800メートル)。
 柴田善臣騎手を背にこのレース、生涯唯一1番人気に推されたが、休み明けが堪えたのか、
 乗り替わりに過剰に反応したのか、10着に大敗してしまう。
 明けて'93年の中山金杯・中山記念と柴田騎手が跨ったが、連続6着。
 その次の新潟大賞典(当時は2200メートル)、鞍上は再び大崎騎手に戻って2番人気に推されたものの、
 8着に敗退。不振から抜け出せずにあえぐツインターボがそこにはいた。

 そんな中で7月11日、彼は七夕賞に出走する。そして運命的な出会いがそこに、あった。
 中館英二騎手が彼の鞍上に指名されたのである。
 ゲートオープン。彼は大外16番枠から一気にハナに立つ。前半3Fがなんと33.9。
 マイル戦並のテンの速さ。しかし、ペースが落ちない。1000メートル通過は57.7。
 秋の天皇賞でもめったに見られないこのラップ。サイレンススズカ並みの時計である。
 そのまま4コーナーへ。
 2番手グループにいたトミケンドリーム・マイネルヨース・ユーワビームがズルズルと後退していく中、
 ツインターボの脚色は衰えない。下がってゆく3頭に代わって、2番人気アイルトンシンボリ・1番人気
 ダイワジェームスが2番手に上がって直線へ。しかしツインターボはなおも逃げる。
 まずダイワジェームスの脚が止まった。アイルトンシンボリはなおも伸びようとする。
 しかしツインターボは止まらない。結局、上がり3Fを37.7でまとめてツインターボが逃げ切った。
 勝ち時計は1.59.5、上がりの5F-4F-3Fが62.1-49.9-37.7。丸2年ぶりの勝利を前回と同じ福島で
 納めたのである。

 続くオールカマー。前走の強い勝ちっぷりもあって、彼は再び3番人気に支持された。
 だが今回はちょっと相手が違う。菊花賞馬にして春の天皇賞馬ライスシャワー(1番人気)。
 復活を期す一昨年の桜花賞馬シスタートウショウ(2番人気)。昨年、このレースをレコード勝ちしている
 イクノディクタス(4番人気)。昨年の秋の天皇賞2着馬ムービースター(5番人気)。往年の人気馬
 ホワイトストーン(6番人気)。 後方一気の末脚鋭いゴールデンアイ(7番人気)に大井の代表
 ハシルショウグン(8番人気)。

 そうそうたるメンバーが中山の2200メートルに集まった。

 スタート。ツインターボはいつも通り一気にハナを奪い、大逃げを打つ。前半の600-1000メーターは
 35.9-59.5。七夕賞の殺人的ペースではないにせよ、中山の2200としては相当に速いラップ。
 しかしそんなことはお構いなしになおも彼は飛ばす。ビュンビュン飛ばす。
 スタート後の2Fめから残り600メートルまで(200メートル地点〜1600メートル地点まで)、
 彼は11秒台のラップを刻み続ける。向こう正面で2番手のホワイトストーンとの差はゆうに20馬身を
 超えているのに、鞍上の中館騎手は息を入れようとしない。当然のごとくざわめく場内。
 そして3コーナーにさしかかる。2番手にいるホワイトストーンとの差はなんとまだ3秒・約15〜18馬身も
 ある。既に3,4コーナーの中間に差し掛かろうとしているにも関わらず、だ。しかし後続は捕まえに
 行かない。いや、行けないのか。捕まえに行かずとも必ず止まる。無理していくとこっちが持たない。
 そういう気持ちが後続の12頭の騎手達には少なからずあっただろう。だが、もうそんな常識の枠を
 超えた差が、現に付いてしまっているのだ。そして最後の直線・・・ゴール前200メートルから
 日本一急な坂が設けられている310メートルの直線に入った。

 ツインターボなおも逃げる。2番手のホワイトストーンは手応えがかなり怪しい。
 ハシルショウグンが3番手から2番手を伺い、さらにライスシャワー・シスタートウショウも上がってくる。
 しかしツインターボとの差はまだ10馬身近く開いている。

 残り200、中山名物心臓破りの坂。大抵の逃げ馬はこの坂の半ばあたりで捕まってしまう。
 中館騎手が懸命に追う。ツインターボも明らかに失速していた。しかし後続が思うように伸びて来れない。
 ハシルショウグン・ライスシャワー・ホワイトストーン・シスタートウショウがほぼ一団となって追撃するが、
 なかなか差が縮まらない。

 結局、5馬身の大差を付けてツインターボが逃げ切った。
 勝ち時計は2.12.6、ゴールまでの4F-3F-2F-1Fは11.8-12.1-12.6-13.0。
 明らかに逃げ脚は鈍っていたが、道中でつけた20馬身以上の貯金がものを言った。
 5着のシスタートウショウはラスト3F34.7の脚を使っているのに、ゴールでは6馬身も離されていた。
 つまり、単純計算すれば、3コーナーで5番手にいた彼女とツインターボの差は約4秒ほど・ざっと25馬身。
 残りの600メートルで20馬身近く差を詰めたのに、それでも彼女はツインターボを捕まえられず、
 6馬身負けたのだ。この悔しさ、いかばかりか。
 つまりはツインターボにとっては、こういう競馬がベストだったのだろう。
 普通なら99%直線入り口で捕まるような競馬で、彼は勝つことができる馬だったのである。
 さしづめ'90年代前半のサイレンススズカと言ったところだろうか。

 重賞2連勝で迎えた秋の天皇賞。オールカマーで下した相手にヤマニンゼファー・セキテイリュウオーら
 が加わったが、ファンはツインターボに3番人気の評価を与えた。大逃走劇第3章を期待したファンも
 多かったのだ。いつも通りハナを奪っていったツインターボ。前半1000メートルは58.6。
 数字だけ見れば彼のペースなのだが、後ろからロンシャンボーイとナイスネイチャ、ヤマニンゼファーが
 ぴったりマークしてくる。つつかれ気味になったツインターボは早くも4コーナーでナイスネイチャ・ヤマニン
 ゼファーに追いつかれてしまった。こうなっては万事休す。
 勝ったヤマニンゼファーから2.8秒離されてのシンガリ負けを喫してしまった。

 その後、ついに1勝もできぬまま8歳('95)の新潟大賞典を最後に公営・上山競馬へ。
 向こうでも逃げまくっていたそうだが、'97年ついに引退・宮城県で種牡馬になる予定だったというが、
 直後に亡くなったと聞いている。

 無名のリファール系種牡馬だった父・ライラリッジの唯一の代表馬としてだけではなく、
 ビュンビュン飛ばしまくってひたすら我が道を突き進んだ”最高”の逃げ馬。それがツインターボだった。

 今はただ、彼の常識破りの、それでいて最高にカッコよかったあのレースぶりを思い出しながら、
 冥福を祈るばかりである。
 某マンガ家が言っていた。”後世まで語り継がれるのは、このテの馬なんだ”と。

 ツインターボ全成績(22戦5勝)
 開催日 レース名 コース・距離 状態 騎手 斤量 着 タイム 前半5F-上がり3F
 91/03/02 4歳新馬 中山・ダ・1800 良 石塚 55 1 1.57.2 64.0-40.4
 91/03/24 もくれん賞(500万下) 中山・芝・2000 稍重 石塚 55 1 2.03.461.4-37.6
 91/04/27 青葉賞(オープン特別) 東京・芝・2400 良 大崎 56 9 2.28.9 60.5-36.9
 91/05/26 駒草賞(900万下) 東京・芝・2000 良 大崎 55 5 2.02.0 59.1-38.7
 91/06/30 ラジオたんぱ賞(G3) 福島・芝・1800 良 大崎 54 1 1.48.5 58.9-37.3
 91/09/22 セントライト記念(G2) 中山・芝・2200 良 大崎 56 2 2.12.8 59.2-36.9
 91/11/17 福島記念(G3) 福島・芝・2000 良 大崎 55 2 2.01.4 59.2-38.2
 91/12/22 有馬記念(G1) 中山・芝・2500 良 大崎 55 14 2.34.4 @1 65.3-39.9
 92/11/08 福島民友C(オープン特別) 福島・芝・1800 良 柴田善 57 10 1.52.0 59.5-40.2
 93/01/05 中山金杯(G3) 中山・芝・2000 良 柴田善 55 6 2.00.9 59.5-37.7
 93/03/14 中山記念(G2) 中山・芝・1800 良 柴田善 57 6 1.47.5 58.7-36.8
 93/05/16 新潟大賞典(G3) 新潟・芝・2200 良 大崎 55 8 2.14.4 60.3-38.1
 93/07/11 七夕賞(G3) 中山・芝・2000 良 中館 55 1 1.59.5 57.7-37.7
 93/09/19 オールカマー(G2) 中山・芝・2200 良 中館 56 1 2.12.7 59.5-37.8
 93/10/31 天皇賞・秋(G1) 東京・芝・2000 良 中館 58 17 2.01.7 58.6-39.2
 94/01/23 AJCC(G2) 中山・芝・2200 良 中館 57 6 2.14.7 61.0-36.8
 94/03/20 日経賞(G2) 中山・芝・2500 良 中館 57 6 2.34.4 @1 66.7-39.3
 94/08/21 函館記念(G3) 函館・芝・2000 良 田面木 56 11 2.03.8 59.3-39.5
 94/11/20 福島記念(G3) 福島・芝・2000 良 宗像 57 8 2.02.7 58.9-38.9
 94/12/25 有馬記念(G1) 中山・芝・2500 良 田中勝 56 13 2.37.2 @1 64.9-41.7
 95/01/22 AJCC(G2) 中山・芝・2200 良 中館 57 10 2.17.4 60.8-39.7
 95/05/14 新潟大賞典(G3) 福島・芝・2000 重 宗像 56 11 2.06.2 59.8-40.8

 @1 前半5.5F(1100メートル)のラップ。